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運命の日

 あの大王を最後まで追いつめた少年は、今もその背中を追い続けていたのかもしれない。あのときの少年は既に青年となったが、少し不器用にだけれども、まだがむしゃらに頂上を目指し走り続けていた。
 この世界に、一年前、もう一人の少年が現れた。その「空を飛ぶ」ように走る少年は、同じ世代の少年達を圧倒し、たった一年で三つの冠を手に入れ、いつしか天才とか、怪物などと称されるようになっていた。
 そして、この国の頂点を前に、少年の心を持った青年と、天才と呼ばれる少年がついに相まみえた…

 無敗四冠…日本競馬史上ただの一頭も達成したことのない快挙に、史上二頭目の無敗の三冠馬、ディープインパクトが挑む。
 混乱のないスムーズなスタート直後、タップダンスシチーが押して引っ張る隊列の一番後ろ、ディープインパクトは指定席に悠々と付けた。外からオオスミハルカも先頭を争うが、タップダンスシチーは譲らない。スタンド前の直線を向く頃には大方の隊列は決まっていたが、ここでなんとハーツクライは三番手、先頭を見据えて折り合って進んでいた。
 そのままバックストレッチに向かい、一番後ろに付けていたディープインパクトは行く気に任せて外目を通ってポジションをゆっくりと上げていく。
 そしてスタンドが一気に湧いた。ディープインパクトが動いた。
 最終コーナー手前で、既に先頭集団の直後につけ、前を走る馬がつくる壁のちょうどきっちり一頭分外に出て直線を向く。

「決まった」
 この瞬間に無敗四冠を確信した。しかし、テレビ画面に映し出されるディープインパクトは、その確信が描き出した映像とは微妙に違っていた。しかもその差異は、ゴールが近づくにつれ加速度的に大きくなる。
 ディープインパクトは前を走っていた馬を交わしていく。が、いつものようにあっという間ではない。スタンドがざわめき始める。
 ハーツクライが満を持して追い始める。そして、あっという間に先頭に立つ。
 ディープインパクトは追う。しかし、スタンドのざわめきはいつしか寄り集まって、悲鳴すら入り交じり異様な歓声にとなった。
「飛ばなかった」
主戦の鞍上 武 豊 騎手がレース後にコメントしたように、追うディープとハーツの差はじわじわとしか縮まらず、半馬身となったところがゴールだった。

 三度目の騎乗、ハーツクライの鞍上 クリストフ・ルメール 騎手の拳が、天を突き崩さんばかりに力強く突き上げられた。

 ショックから立ち直るのに時間がかかりました。
 ディープインパクトが負けた日。ハーツクライが勝った日。まさに運命の日だったように思います。
 レース後、武 豊 騎手が「飛ばなかった」と発言していたことが気になりましたが、どうやらディープインパクトに異常はなかったようです。このまま厩舎に残って調整を続け、一戦して天皇賞(春)を目指すとのこと。
 一方、ハーツクライはとうとう GI に手が届きました。ずっと応援してきた馬なので嬉しいことは嬉しいのですが、諸手を挙げられないのはどうも奇襲で勝ったようなイメージになってしまったのが原因だと思います。ただ、事実としてディープは他の古馬は一蹴して見せ、その上でハーツはその前を走っていた訳ですから、この結果が現時点での真実なのでしょう。
 ハーツクライも、来年は天皇賞(春)に出走するそうです。しかし、ディープインパクトともどもベストディスタンスとは言いづらい舞台なので、できれば夏のグランプリ「宝塚記念」で今一度、力勝負を見たい気がします。
# ハーツはキングジョージを視野に入れるそうなんで実現するかは微妙ですが…

 無人の野を行くディープインパクトを見続けるより、やはりライバルはいた方がいい。それがハーツクライなら…来年もおもしろい競馬が見られそうです。

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