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快挙の達成とはかくあるべき

 入厩してすぐすばらしい動きを見せる牝馬だという報告を受けたオーナーは言ったという。
「全部登録しておくように」
「桜花賞とオークスですね」
「五つ(桜花賞、オークス、皐月賞、ダービー、菊花賞)全部だ」

 2007 年の皐月賞はヴィクトリー、サンツェッペリンの逃げた二頭が残って大波乱。
 その皐月賞で、ゴール前驚異の鬼脚で前を行く二頭を捕まえに行ったフサイチホウオー。無敗の記録はここで途絶えたが「負けてなお強し」、その強烈なインパクトは 1 ヶ月経って日本ダービーの日を迎えても消えてはいなかった。単勝 1 倍台のダントツの一番人気。
 そのフサイチホウオーまでスタート前しきりに頭を上下して、発汗も激しかった。対して、皐月賞で惨敗を喫した毎日杯馬ナムラマースはパドックから抜群の気配を見せ、またその皐月賞で大波乱の立役者となったサンツェッペリンはパドックでは落ち着かない様子だったが、スタート前には落ち着いて集中力を高めているようであった。

 スタートは横一線、唯一皐月賞馬ヴィクトリーが出遅れ騒然となったが、第 1 コーナーですでに最後尾にとりつき、かかり気味に外からぐんぐんポジションをあげて、向正面に入る頃には四、五番手の好位に付けていた。
 先頭はここ二走、先手を取れずに見せ場のなかったアサクサキングスがハナを切り、1000m 通貨タイムが 1 分ちょうどくらいの完全な平均ペースで涼しげに馬群を引っ張る。直後にサンツェッペリン。一番人気フサイチホウオーは七、八番手の好位。しかし、折り合いに苦労している様子。
 そのフサイチホウオーを見る位置にタスカータソルテ、ウォッカ、ヒラボクロイヤル、ナムラマースと人気馬がごった返す。最後方のドリームジャーニー、フライングアップルまでの後方馬群はコンパクトにまとまっていた。淡々と先行するアサクサキングス先頭のまま最終コーナーまでにさらに馬群は詰まったが、先頭はそのまま。アサクサキングスが直線を向く。
 後方で先にヴィクトリーがスパートをかけ、それを追うようにフサイチホウオーが動く。先行集団にいたアドマイヤオーラは待ったのか、エンジンの掛かりが遅いのか、直線を向いたときにはフサイチホウオーと馬体をあわせていた。フサイチホウオーに鞭が入る。その外、アドマイヤオーラにも鞭が入る。内からヴィクトリーもホウオーに馬体をあわせようと外に膨らむ。
 皐月賞馬と皐月賞一番、二番人気の直接対決!?
 しかし、ホウオーが伸びない。ヴィクトリーも伸びない。エンジンのかかったアドマイヤオーラだけが徐々に抜け出してその差を広げていく。やっとエンジンのかかったアドマイヤオーラが伸び始める。
 しかし、残り 400m 、先頭を行くアサクサキングスに果敢に並びに行くサンツェッペリンと言う先頭争いに一気に差を詰めていったのは、そのアドマイヤオーラではなかった。
 ヴィクトリーがフサイチホウオーに馬体をあわせに外に向いたときに開いた進路から、撃ち出された弾丸のように伸びてきたのは、なんと 11 年ぶりに参戦した牝馬ウォッカ。
 主戦 四位 騎手は、戦前から「牝馬と思って乗らない」と公言していた。しかし、この切れ味は牝馬特有の切れ、ただし力感は四位 騎手の言うとおりだった。なぎ倒すような圧倒的な力感。府中の坂などなきがごとく、坂を上りながらアサクサキングスに挑んでいったサンツェッペリンが、坂を登り切る前に力尽きていくのを尻目に、並ぶまもなく馬場の真ん中堂々と一気に先頭に立つ。
 それは女王ではなく、まさに王者の力。

 64 年ぶりダービー馬を名乗ることを牝馬ウォッカ…並み居る 17 頭の牡馬を引き連れて、歴史的快挙の達成とはかくあるべき、あまりにも鮮やかで、あまりにも圧倒的で、あまりにも劇的であった。

 唖然、呆然です。
 強い牝馬とは思っていました。展開も向いたのも事実でしょう。牝馬で唯一後塵を拝した桜花賞馬ダイワスカーレットとの再戦を望む声もありましたし、私自身もオークスに行って欲しかったと思っていました。
 しかし、この結果を見せつけられたら、この馬がダービーを選択したこと、そしてこの馬が第 74 代日本ダービー馬を名乗ることに異論などありません。

「ダービーとはすべてのホースマンの夢」
 そしてファンがその夢を見れる舞台だと思います。今年の日本ダービー、一ファンとしてすばらしい夢を見せてもらいました。
 この馬なら、もしかしたらあのロンシャンでの屈辱を晴らしてくれるかも…気が早いと言われるでしょう。それでも関係者の方々に今からお願いしたい。
「もう一度、夢を見せてくれませんか?」

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